日本の中古車はどこへ輸出されているのか——ロシアやUAEは知られていても、2026年1〜5月の2位がタンザニアだと知る人は、業界の外にはほとんどいません。公表されている貿易統計ベースの集計では、タンザニア向けは2023年に79,822台でアフリカ最大となり、2025年は117,489台で世界3位、そして2026年に入ってロシアに次ぐ世界2位へ浮上しました。

筆者は中古車輸出を本業としています。東アフリカ向けは業界の主戦場のひとつで、このマーケットの構造は、日本で車を手放す人にも実は関係があります。「10年落ちだから」「過走行だから」と国内で値段が付かない車に、なぜ業者間では値段が付くのか——その受け皿の実像がタンザニアだからです。

データ:10年でほぼ倍増、2022年にケニアを逆転

まず数字から。タンザニア向けの中古車輸出台数はこう推移しています。

タンザニア(参考)ケニア
2014年37,343台
2018年58,596台
2021年62,428台73,459台
2022年70,851台61,317台
2023年79,822台61,043台
2025年117,489台77,205台

2022年に長らく東アフリカの盟主だったケニアを追い抜き、2025年には11万台を超えて世界3位。そして2026年、この流れを一気に加速させる出来事が起きます。

2026年の急増:ホルムズ海峡閉鎖で「UAEハブ」が止まった

2026年3月のイラン紛争でホルムズ海峡の航行が止まり、世界最大級の中古車中継地だったUAE(ドバイ)経由の流通が事実上停止しました。月次の数字が地殻変動をそのまま記録しています。

2026年UAE向けタンザニア向け
2月18,023台18,711台
3月1,499台16,106台
4月966台15,885台
5月283台14,495台

UAEは3月にほぼゼロへ急停止。一方タンザニアは2月以降、前年同月(月8,000台前後)の約2倍にあたる月1.5万台前後で走り続け、2026年1〜5月の累計は73,739台(前年同期比+84%)に達しました。

背景は流通経路の付け替えです。UAEは自国で乗るためではなく、アフリカ・中東圏へ再輸出するためのハブとして日本車を吸い込んできました。その経由地が閉じた結果、アフリカ向けの車は日本からアフリカの玄関口・タンザニアへ直行するルートに切り替わった——これが足元の急増の正体です。海峡の再開後はある程度の揺り戻しが想定されますが、一度できた直行の商流は簡単には消えません。

では、なぜ受け皿がタンザニアだったのか。土台には長期の3つの構造があります。

なぜタンザニアなのか——3つの構造

① 東アフリカで最も「年式に寛容」な大市場

隣国と比べると、タンザニアの規制の緩さが際立ちます。

  • ケニア: 初度登録から7年以内しか輸入できないハードな足切り(ケニアの8年ルールの記事で解説)
  • ウガンダ: 製造15年未満+車齢に応じた環境税(8〜15年で50%など)
  • タンザニア: 年式による輸入禁止なし。製造8年超に追加課税がかかるのみ

つまり、ケニアに入れられない8年超・10年超の車が、そのままタンザニアの土俵に乗ります。日本で「もう古い」と言われる年式帯の車にとって、東アフリカ最大の現実的な受け皿がここです(規制は変わることがあるため、輸出実務では常に最新の確認が必要です)。UAEハブ停止の受け皿になれたのも、この「年式に寛容な大市場」という土台があればこそです。

② ダルエスサラーム港=内陸6か国へのゲートウェイ

タンザニアの玄関口ダルエスサラーム港は、自国需要だけでなく、ザンビア・コンゴ民主共和国・ルワンダ・ブルンジ・マラウイといった内陸国への中継港でもあります。統計上「タンザニア向け」の車の一部は、陸路でさらに奥へ運ばれて再登録されます。年10万台超という数字の背後には、東アフリカ内陸部という、より大きな商圏が広がっています。

③ 主役は「10年超のコンパクト・ハイブリッド」と「ミニバン・SUV」

現地で実際に動いている車種を公開の輸出情報で見ると、顔ぶれは明確です。人気1位はフィット(2代目GE系)。以下、ウィッシュ・シエンタ(80系)・アクア・ノートといったコンパクト&コンパクトミニバン勢、ハリアー・ランドクルーザープラド(150系)・CX-5・フォレスター・エクストレイルのSUV勢、アルファード・ヴェルファイアの上級ミニバンが続きます。

共通点は2つ。日本のボリューム車の10〜20年落ちであること(GE系フィットは13〜19年落ち、10系ウィッシュに至っては17年超)、そしてハイブリッド比率の高さです。燃料が高い現地では、アクア・フィットHV・ヴェゼルHVのような日本の中古ハイブリッドが最も合理的な足になります。日本の中古車は走行距離が伸びていても整備状態が良く、現地の物差しでは「まだ半分」。過走行車の買取相場の記事で書いた「距離で値段が崩れない」実落札の構造は、こうした仕向地の実需が支えています。

買い取った白のプリウス前方
買い取ったプリウス。ハイブリッドは燃料の高い仕向地で最も指名される部類で、年式が古くても値が付きやすい

日本の売り手にとっての意味

このマーケット構造は、車を手放す人にとって3つの実践的な意味を持ちます。

  1. 「10年落ち=価値なし」は国内の物差しにすぎない。タンザニアの土俵では10年超が主力商品です。現地人気の顔ぶれ——フィットウィッシュシエンタアクアハリアーランドクルーザープラド——の年式別の実勢は各車種ページの帯データで確認できます。値落ちデータ分析で見た「年式で崩れない車種」の下値を支えているのが、この需要です
  2. RORO船が大半=事故現状車はこの土俵に乗れない。タンザニア向けの出荷は自走で船に乗り込むRORO船(自動車専用船)が大半を占めるため、輸出前検査(EAA・JAAI等)を通る「走れる車」であることが前提です。壊れたままの事故現状車は検査を通過できず出荷できないので、事故車専門オークションという別の土俵になります
  3. 売却時は輸出対応業者を相見積もりに含める。国内再販の物差ししか持たない店と、東アフリカの実需を知る業者では、同じ車の値付けが変わります。自分の車に輸出需要があるかは出口診断ツール(無料・個人情報不要)で車種から確認できます

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まとめ

  • タンザニアは2022年にケニアを抜いてアフリカ最大となり、2025年は約11.7万台で世界3位、2026年1〜5月はロシアに次ぐ世界2位
  • 急増の引き金は2026年3月のホルムズ海峡閉鎖。再輸出ハブUAEが停止し(月1.8万台→283台)、アフリカ向けが日本→タンザニア直行へ切り替わった
  • 土台は年式規制の緩さ(禁止なし・8年超は追加課税のみ)、ダルエスサラーム港の内陸ゲートウェイ機能10年超のコンパクト・ハイブリッドとミニバン・SUVの実需
  • 出荷はRORO船が大半のため「走れる車」が前提。事故現状車は検査を通らず、事故車専門の別の土俵になる
  • 日本で値落ちした10年超・過走行車の「受け皿」の実体がここにある。売却時は輸出対応業者を含めた相見積もり

なお、本記事の統計は公表されている貿易統計ベースの集計、規制情報は執筆時点の公開情報にもとづきます。輸入規制・課税は変更されることがあるため、輸出実務においては最新の情報を検査機関・現地当局でご確認ください。本記事は個別の査定額・輸出可否を保証するものではありません。