このコラムではいつも車の「手放し方」を書いていますが、今回は少し毛色を変えて「買い方」の話です。

筆者は解体・輸出の現場の人間で、車を売る側ではなく買い付ける側です。その立場から日本の中古車相場を眺めていると、数年後に値落ちしにくい車は、国内の人気だけでは決まらないことがよくわかります。カギを握るのは海外の輸入規制です。今回はその代表例として、東アフリカ・ケニアの「8年ルール」を取り上げ、これを織り込んだ中古車の買い方を考えてみます。

日本の中古車相場は「海外の買い手」が支えている

まず前提の話です。日本の中古車は毎年大量に海外へ輸出されており、公表されている貿易統計ベースでは、ケニア向けだけでも2024年度に約5.7万台(国別6位)が日本から送り出されています。ケニアは日本と同じ左側通行・右ハンドルの国で、走っている中古車の大半は日本から来た車です。

これが何を意味するかというと、国内のオークション会場では、国内販売店だけでなく輸出業者も同じ車を競っているということです。国内で乗る人が少なくなった車種・年式でも、海外に需要があれば輸出勢が値段を持ち上げます。「なんでこの車がこんな値段で落ちるのか」という光景の裏には、たいてい海外の買い手がいます。

駐車場に停まる黒のフォレスター(SJ型)の前方
買取車両の黒のフォレスター。国内ではありふれたSUVだが、ケニア向けの人気リストにも名前が挙がる一台だ

ケニアの「8年ルール」とは何か

ケニアには、KS 1515という輸入車両の規格があり、その中に製造から8年以内の車しか輸入できないという年式制限があります。いわゆる8年ルールです。ポイントは次のとおりです。

  • 基準は書類の登録年ではなく「製造年月」。実車がいつ作られたかで判定されます。輸出前の検査では、シートベルトのタグなど車体側の刻印から製造年月を割り出して確認するため、書類上の年式ではごまかしが利きません
  • 毎年1月に対象年がスライドする。2026年に輸入できるのは、2019年以降に製造された車だけです。2027年になれば2020年以降、と窓が毎年ずれていきます
  • 右ハンドル車のみ(特殊用途を除く)
  • 2025年11月にはケニア規格局が改めて通知を出し、2026年1月から運用が厳格化されています。年式オーバーの車は港で差し戻しや没収の対象になるため、輸出する側はこのルールを絶対に守ります

この「絶対に守られる年式の壁」が、日本のオークション相場に独特の形を作ります。

相場に効く境界は「8年」ではなく、実は「7年」にある

8年ルールは「輸入できるかどうか」の壁ですが、相場を動かす境界はもう一つあります。ケニアの輸入課税は車の経過年数に応じて課税評価が下がっていく仕組みになっており、製造から7年を超えると、現地で払う税金が一段安くなります。ケニアの輸入者にとっての「買い頃」は、この7年の壁を越えてから輸入禁止になるまで——つまり7年目から8年目までのわずかな窓に集中するのです。

ここで大事なのは、この境界が書類上の「年式」ではなく製造年月で、月単位で決まることです。日本で売却された車がモンバサ港に到着するまでのリードタイムは、実務でおよそ2か月。ケニア向けの買い付けをする業者は、仕入れの時点で到着時期(ETA)から逆算し、その車が現地で安い税負担に収まるかどうかを読んで入札します。つまり同じ車種・同じ状態の車でも、製造年月と売却月の組み合わせで「輸出勢が強く買える月」と「買えない月」がはっきり分かれる。現場ではgood month / bad month と呼び分けるほど、月単位の差になります。

具体例を出します。2019年8月製造の車の場合、現場の読み方では、ETAが2026年6月ごろに収まる売り方ならgood monthです。到着後の通関・現地登録まで含めると、ちょうど税負担の下がるゾーンに乗るからです。逆にETAが2026年10月など秋以降にずれ込むとbad month。通関・登録が暦年の切り替わり(毎年1月の輸入可能年式スライド)に掛かるリスクを買い手が嫌うため、入札が細ります。そして2027年になれば、2019年製の車はケニアへの輸入自体ができなくなります。窓は一度きりで、後戻りはありません

ケニア向けに動いている車種(公開データから)

では、どんな車がこの需要の対象になるのか。当サイトの車種マスタ(輸出情報サイトの公開ランキングをもとに構築)でケニア向けに名前が挙がっているモデルを一部紹介すると、次のような顔ぶれです。

  • 5ナンバーワゴン・コンパクト: カローラフィールダー(ハイブリッド含む)、カローラアクシオ、ヴィッツ、ノート(e-POWER含む)
  • SUV: ハリアー、フォレスター、CX-5、CX-8、RAV4、ランドクルーザープラド
  • 商用・実用系: プロボックスバン、ハイラックス、ノア
  • 軽自動車: アルト、ミライース

現地の燃料価格が高いこともあり、ハイブリッドの比率が高いのが近年の特徴です。国内で「ありふれた実用車」と見られている車種ほど、海外では指名買いされている——このギャップが、リセールの差になって表れます。

もう一つの前提——「輸出前検査に通る、走る車」であること

見落とされがちな条件をもう一つ。ケニア向けの中古車は、船積みの前に日本国内での輸出前検査を受けることが義務付けられています。ケニア規格局(KEBS)が指定した検査機関が、外装・内装・電装・保安装置からオドメーターの整合性、放射線量、そして先ほど触れた製造年月(シートベルトのタグなど)まで実車で確認し、合格証がなければ現地で通関できません。

ここで押さえておきたいのは線引きです。修復歴があっても、きちんと修理されて問題なく走る車であれば検査に通り、輸出できます。一方で、不動車や、事故で壊れたままの「現状車」は出荷できません。というのも、ケニア向けはコンテナ船ではなくRORO船(車が自走して船に乗り込む方式の船)で運ばれるマーケットだからです。自分で走れない車は、そもそも船に積むことができません。

つまり「ケニア需要による相場の下支え」が効くのは、検査に通る状態で走る車まで。動かなくなった車や事故で壊れたままの車は輸出の土俵に乗らないため、出口は部品・素材の側になります。そちらは動かない車の処分方法事故車は修理と売却どちらが得かの記事を参照してください。

買い方への落とし込み——bad monthの個体を安く買い、good monthに合わせて売る

以上を踏まえると、リセールで損をしにくい買い方・売り方はこう整理できます。

  1. ケニア(東アフリカ)人気と国内人気が重なる車種を選ぶ。上のリストでいえばフィールダー、ノート、ハリアー、フォレスターあたりは国内の需要とも重なります。輸出需要が万一細っても国内で売れる、という保険になります
  2. 買うときは、輸出勢が降りている個体が狙い目。同じ車種でも、製造年月の関係で「いま売るとETAがbad monthに当たる」個体には輸出業者の入札が入らず、相場が沈みがちです。国内で乗るぶんには何の違いもないので、買う側に回るならこの沈んだ個体を安く拾えます
  3. 乗る期間は車検のサイクルで区切り、手放しの月から逆算して買う。2年前後乗る前提なら、購入時点で「売る月」まで決めておけるのがこの方法の強みです
  4. 売るのは、その個体の「7年の境界月」の約2か月前。日本での売却からモンバサ到着まで約2か月なので、ETAがちょうど現地税の下がるタイミングに着弾し、輸出業者が最も強く入札できる状態で手放せます
  5. 年末年始またぎは避ける。毎年1月に輸入可能年式がスライドするため、ETAが年明けにずれ込む時期の売却は買い手が引きやすくなります

起点になるのは製造年月です。中古車情報の「年式」は初度登録ベースで書かれていることが多く、製造から登録まで間が空いている個体もあります。輸出検査の現場ではシートベルトのタグなど車体側の刻印から製造年月を確認するので、正確に知りたいときは同じ場所を見るのが確実です。

もちろん、これは「必ず高く売れる」という話ではありません。あくまで買い手の層が最も厚くなる月を狙って手放せる確率を上げる考え方です。

モデルチェンジは「狙い目」を作る——RAV4の例

この構造が生きる具体的な局面を一つ挙げておきます。RAV4は2025年12月に6代目へフルモデルチェンジし、5代目(いわゆる50系)は型落ちになりました。国内では新型への乗り換えで中古車の球数が増え、型落ちの相場は緩みやすい局面です。

一方で輸出側から見ると、50系の国内発売は2019年4月。つまり最初期の個体は、ちょうど2026年から製造7年の境界を越え始め、税負担の下がるgood monthのゾーンにこれから順番に入っていく年式群です。しかも2019年製の個体がケニアに入れるのは2026年いっぱいまでですから、輸出勢の駆け込み需要も掛かります。

「国内では型落ちで値が緩み、輸出ではこれから需要が点火する」——この2つの力が同じ個体の上で交錯するのが、フルモデルチェンジ直後の面白いところです。グレードや状態にもよるので断定はしませんが、新旧交代期の旧型人気SUVには、こうした構造のズレを突ける狙い目の個体が出てきやすい、というのが現場の見立てです。

逆風も書いておく——税制強化と規制変更のリスク

フェアに、逆風の材料も挙げておきます。

一つは現地の税負担です。ケニアでは2025年7月に課税基準となる車両価格表(CRSP)が改定され、関税率もかつての25%から35%へ引き上げられるなど、輸入コストは上がる方向にあります。現地の末端価格が上がれば、需要がより安い小型車やハイブリッドへ寄る、あるいは総量が細る可能性があります。

もう一つは規制そのものの変更です。ケニアでは過去に年式制限を8年から5年へ短縮する案が出たことがあり(このときは業界の反発で見送られました)、規制は政治で動きます。仮に5年に短縮されれば、需要の集中する年式帯が一気に若返り、「7年目までに売る」戦略の前提が変わります。

だからこそ筆者は、輸出需要だけを当てにした投機的な買い方はおすすめしません。国内でも普通に需要のある実用車を、輸出の窓を意識したタイミングで売り買いする——この「保険付きの織り込み方」が、現場から見た現実的な落としどころです。

まとめ

  • 日本の中古車相場は、ケニアをはじめとする海外の輸出需要に下支えされている
  • ケニアの8年ルールは「輸入できるか」の壁。相場に効くのはもう一つの境界=製造から7年で現地税が下がる壁で、これは月単位で決まる(基準は書類の年式でなく製造年月)
  • 輸出業者は到着時期(ETA)から逆算して入札するため、同じ車でも売る月で値段が変わる(good month / bad month)
  • 買うなら「国内人気×輸出人気」が重なる車種を、bad monthで相場が沈んだタイミングで。売るのはその個体の7年境界月の約2か月前。フルモデルチェンジ直後の旧型(RAV4 50系など)は構造的な狙い目になりうる
  • 輸出には日本国内での事前検査が必須。修復歴があっても走る車なら通るが、不動車・事故で壊れたままの現状車は対象外(RORO船に自走で積み込むため)
  • ただし税制・規制は動くもの。輸出需要は「保険付き」で織り込むのが現実的

いま持っている車をどの出口で手放すべきか(国内の一括査定か、輸出ルートの買取か、素材としての廃車買取か)は、車種・年式・走行距離から出口診断ツールで目安を確認できます。「無料回収」や買取の裏側でどう収益化されているかは、廃車費用のからくりの記事もあわせてどうぞ。

なお、本記事の規制・統計・相場観は執筆時点(2026年7月)の公開情報と業界一般の実務感覚に基づくものです。将来のリセールバリューや買取額を保証するものではなく、各国の輸入規制・税制は変更されることがあります。売買の判断はご自身の責任でお願いします。