ケニアの8年ルールでは「古くなると輸入できなくなる」規制を、アメリカの25年ルールでは「古くなるほど解禁される」規制を書きました。規制シリーズの第3弾は、国そのものが5年間閉じていた市場がいきなり開いたという、もっと劇的な話です。舞台はスリランカ。そして主役は、意外にも日本の軽自動車です。
何が起きたか:5年の「自動車鎖国」が終わった
スリランカは深刻な外貨危機により、約5年にわたって自動車輸入をほぼ全面停止していました。事実上の「自動車鎖国」です。それが動いたのが2025年。1月27日にダンプカーなど貨物自動車の輸入再開を発表、1月31日にはバス・貨物車とともに自家用車の輸入再開も明らかにし、2月から本格化しました。
数字のインパクトは強烈です。貿易統計にもとづく業界集計によると——
- 2024年1〜6月:日本からの中古車輸出は43台(乗用車はわずか32台)
- 2025年1〜6月:19,917台(うち乗用車18,829台)
- 2025年7月:単月で11,531台と過去最多を更新
半年で43台から2万台へ。市場がゼロから立ち上がるとき、何が起きるかを教科書のように見せてくれる推移です。
何が買われているか:4割が軽自動車
面白いのはここからです。2025年にスリランカへ輸出された乗用車のカテゴリ別内訳は——
| カテゴリ | 台数 | シェア | 平均単価(FOB) |
|---|---|---|---|
| 軽自動車 | 22,574台 | 38.5% | 135万円 |
| ハイブリッド車(PHEV除く) | 14,807台 | 25.3% | 324万円 |
| 660〜1000ccガソリン車 | 11,797台 | 20.1% | 192万1000円 |
最大勢力は軽自動車で、およそ4割。輸出情報サイトの直近データで上位に並ぶ顔ぶれも、ミライース、ワゴンR、デイズ、エブリイ、N-BOX、ハスラー、スペーシアといった軽勢に、ヴェゼルやライズ、アクア、ヤリスなどのコンパクト・HV勢、そしてランドクルーザー系という構成です。
注目すべきは単価です。軽自動車の平均FOB135万円——国内の中古軽の相場感からすると、かなり高い水準です。乗用車全体の平均単価も234万3000円と高く、2018年同期比で9割近く上がっています。つまり5年分の車両不足を抱えた市場が、高年式・低走行の「上物」から順に買っているということです。税金が高額なため安い車を大量に、ではなく、良い車を確実に、という動き方をしているのが現在のスリランカ市場です。
ただし「誰でも売れる市場」ではない——実務の内幕
ここは輸出実務の現場からの補足です。スリランカ向けの取引には信用状(L/C)の開設が実質必須で、しかも2025年8月からはL/C金額の審査が厳格化されています(7月に単月過去最多を記録したのは、この駆け込みとみられます)。加えて取引は業者間(BtoB)の海上コンテナ輸送が主流。つまり、解禁されたからといって誰でも参入できる市場ではなく、もともと販路と決済スキームを持っている輸出業者に車が集まる構造です。
業界の見立てでは、駆け込みが一巡した後は月間5,000台規模で定着しそうです。年間6万台ペースと考えると、ケニア(年7万台前後)に並ぶ主要仕向国が一夜にして復活したことになります。
売り手にとっての意味:軽とHVの「買い手の厚み」がまた一枚増えた
この話を自分の車に引きつけると、こうなります。
- 軽自動車の輸出需要に、新しい大口の行き先が加わった。アメリカの25年ルールが古い軽トラを、スリランカが高年式の軽乗用を——「軽は海外で売れない」という常識は、もう二重に古くなりました
- ハイブリッドの強さがまた裏付けられた。シェア25.3%・平均324万円という数字は、アクア・プリウス・ヴェゼルHVなどの査定を下支えする実需です
- 恩恵は「輸出対応業者の査定余力」として現れる。L/C必須のBtoB市場なので、個人が直接売る先ではありません。スリランカ向け販路を持つ業者が「この車なら向こうで売れる」と踏んで強い札を入れられるようになった、というのが正確な理解です。売る側の行動としては、輸出ルートを持つ買取店を相見積もりに含める——結論はいつもどおりですが、その期待値が上がっています
そしてこのシリーズで毎回書いていることをここでも。規制の窓は動きます。ケニアの年式境界は毎年ずれ、アメリカは毎月解禁され、スリランカは財政次第で条件が変わりうる(実際、L/C審査は解禁からわずか半年で厳格化されました)。「いつか売ろう」の間に窓が閉じることもあれば、今回のように突然開くこともある——売り時の判断に、行き先の事情という物差しを一本足しておいて損はありません。
まとめ
- スリランカが約5年ぶりに中古車輸入を解禁。日本からの輸出は半年で43台→約2万台に爆発
- 買われているのは軽自動車(シェア38.5%)とハイブリッド。平均単価が高く、高年式の上物から動いている
- L/C必須・BtoBコンテナ主流のため、恩恵はスリランカ販路を持つ輸出業者の査定余力として現れる
- 軽・HVを手放すなら、輸出対応業者を含めた相見積もりの価値が一段上がった
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なお、本記事の統計は貿易統計にもとづく業界集計・報道および執筆時点の公開情報によるもので、今後の輸出動向・現地規制は変動します。個別の査定額を保証するものではありません。