家族が亡くなり、その人名義の車が残った——このとき、車はそのままでは売ることも廃車にすることもできません。車検証の所有者が亡くなった人のままだからです。まず「誰が相続するか」を決め、そのうえで「乗り続けるか・売るか・廃車にするか」を選ぶ。手続きは、この2つの組み合わせで決まります。

筆者は自動車の買取・輸出を本業とし、名義変更・抹消の書類を日常的に扱っています。相続の車は、書類の不足で手続きが止まりやすい代表例です。この記事では、運輸局・軽自動車検査協会の案内にもとづいて、普通車と軽自動車の必要書類、売却や廃車を相続と同時に済ませる方法、そして放置したときに起きることを実務の順番でまとめます。

最初に確認する3つのこと

手続きに入る前に、次の3点で進め方が分かれます。

  1. 車検証の所有者欄は誰か——亡くなった人なら相続の手続きになります。ローン会社やディーラーが所有者(所有権留保)なら、運輸局の案内のとおり相続は発生しません。先に所有者へ連絡し、ローンの残りと所有権解除の方法を確認してください
  2. 普通車か軽自動車か——窓口も書類もまるごと違います。普通車は運輸支局、軽自動車は軽自動車検査協会です
  3. 相続放棄をする可能性があるか——少しでも可能性があるなら、次の節を先に読んでください

相続放棄を考えているなら、車に手を付けない

ここが最も取り返しのつかないポイントです。民法第921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、相続を認めた(単純承認した)ものとみなすと定めています。車を売る・廃車にする・自分の名義に変えるといった行為が「処分」にあたると、相続放棄ができなくなるおそれがあります。

  • 相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所へ申述します(裁判所「相続の放棄の申述」)
  • どこまでが「処分」にあたるかは、個別の事情で判断が分かれます。放棄するかどうか迷っている間は、売却・廃車・名義変更をしないのが安全です。判断に迷う場合は、車に手を付ける前に弁護士・司法書士へ相談してください

相続する(放棄しない)と決まっているなら、以下の手続きに進みます。

普通車の相続——運輸支局で「相続による移転登録」

普通車(登録自動車)は、運輸支局で相続による移転登録をします。相続人のうち1人が引き継ぐ「単独相続」の場合、関東運輸局の案内による主な必要書類は次のとおりです。

書類ポイント
申請書(OCR第1号様式)窓口で入手、または国交省サイトから印刷
手数料納付書・印紙700円(2026年4月1日の改定後の窓口申請の額)
車検証有効期間内のもの。切れている場合は後述
戸籍謄本(全部事項証明書)等死亡の事実と相続人全員が確認できるもの。改製原戸籍が必要になることがある。法定相続情報証明書があれば戸籍謄本等は不要
誰が相続するかを示す書面遺産分割協議書・遺産分割協議成立申立書・遺言書など(下の表)。相続人が1人だけなら不要
新しい所有者の印鑑証明書発行後3か月以内
新しい所有者の実印代理人が行くなら、実印を押した委任状(委任状の書き方)
車庫証明車検証の使用の本拠の位置と新しい使用者の住所が同じなら不要(車庫証明の取り方)
車そのもの管轄が変わってナンバーが変わる場合に必要

「誰が相続するかを示す書面」は、次のいずれかです。

書面使える条件・注意
遺産分割協議書相続人全員が実印を押したもの。相続人に未成年者がいれば、代わって特別代理人の押印が必要
遺産分割協議成立申立書車の価格が100万円以下であることを確認できる査定証、または査定価格を確認できる資料の写しなどを添付した場合に限り使える。この場合、相続する人が相続人であることが確認できれば他の相続人の確認は不要
遺言書公正証書による遺言以外は、家庭裁判所の検認済みのもの
その他遺産分割の調停調書、審判書・判決謄本(確定証明書付き)、遺言書情報証明書

実務で差が出るのは遺産分割協議成立申立書です。遺産分割協議書は相続人全員の実印が必要で、相続人が遠方に散らばっていると、それだけで数週間かかります。一方、10年を超えた車の多くは価格が100万円以下に収まるため、査定価格を確認できる資料を用意できれば、相続する人の書類だけで進められます。

戸籍を何通も集めるのが負担なら、法務局の法定相続情報証明制度が便利です。戸籍一式を一度提出すれば、相続関係を1枚にまとめた証明書を無料で必要な通数交付してもらえ、車の手続きでは戸籍謄本等の代わりになります(法務局「法定相続情報証明制度」)。

書類が通常と変わるケース: 相続人に未成年者がいる、複数の相続人の共有名義にする(共同相続)、相続放棄した人がいる(家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書が必要)、亡くなった人が外国籍——などの場合は、上の表とは書類が変わります。運輸局自身が「相続の手続きは非常に複雑」と案内しているので、車検証を手元に用意して、事前に管轄の運輸支局へ相談するのが確実です。

軽自動車の相続——軽自動車検査協会で、書類はずっと少ない

軽自動車は、軽自動車検査協会で名義変更(自動車検査証記録事項の変更)をします。普通車に比べて手続きは大幅に軽く、通常の名義変更の書類に、相続を確認する書面を1点加えるだけです。

  • 所有者が亡くなった事実と、新しい所有者が相続人(親族等)であることが確認できる戸籍謄本等(コピー可)、または法務局が交付する法定相続情報一覧図
  • 死亡診断書は原則使えません
  • 軽自動車検査協会の案内では、遺産分割協議書は必要書類に挙がっていません
  • 手数料は無料

それ以外の書類(車検証、新しい使用者の住民票など、申請書、管轄が変わる場合のナンバー、代理人が行く場合の申請依頼書)は通常の名義変更と同じです。詳しくは軽自動車の名義変更をご覧ください。

売る・廃車にするなら、相続と同時に手続きできる

「相続はするが、乗る人はいない」というケースは少なくありません。その場合、いったん相続人の名義にしてから改めて売る・抹消する必要はなく、相続の手続きと同時に済ませる方法が用意されています(普通車・関東運輸局の案内)。

やりたいこと手続き印紙
第三者に売る相続と第三者への名義変更を同時に申請(申請書2枚)。相続人は実印を押した譲渡証明書も用意(書き方)1,400円
いったん登録を止めて保管相続と一時抹消を同時に申請700円+500円
解体して廃車永久抹消を相続人の1人が代表して申請できる。戸籍謄本等は死亡の事実と申請する相続人が確認できるもの無料

永久抹消の場合、車検の残りが1か月以上あれば自動車重量税の還付を受けられ、申請書に申請する相続人の預金口座を書きます(重量税・自賠責の還付)。

車検が切れている場合は、次のように進めます。

  • すぐに乗るなら、車検を受けてから相続の手続きをする
  • すぐに乗らないなら、相続と同時に一時抹消し、乗るときに中古新規登録をする
  • 車検切れのまま第三者に売るなら、一時抹消をしてから所有者の変更記録の手続きをする

業者に売る・廃車にするなら、手続きごと任せられる

買取店や廃車買取業者に依頼すれば、運輸支局での手続きは業者が代行し、相続人は案内に沿って書類を揃えるのが一般的な流れです。依頼するときは、最初に「所有者が亡くなっている」と伝えて、自社で用意する書類と相続人が用意する書類を確認してください。戸籍の範囲や遺産分割協議書の要否は相続の状況で変わるため、ここを曖昧にしたまま進めると、引取り当日に書類不足で止まります。

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放置するとどうなるか——自動車税と保険

名義をそのままにしておいても、お金の流れは止まりません。

  • 自動車税(種別割)——所有者が亡くなっても課税は止まらず、納税義務は相続人に引き継がれます(地方税法第9条)。都道府県によっては、相続人の代表者を届け出るよう求められます。乗らないなら、抹消すれば翌月以降の分が月割りで還付されます(軽自動車税には月割還付がありません)
  • 任意保険——補償を続けるにも止めるにも、保険会社への連絡が必要です。同居の親族が車を引き継ぐなら、等級を引き継げる場合があります。乗らないなら解約になりますが、一定の条件を満たせば等級を保存しておける中断証明書を発行してもらえるので、解約の前に確認してください
  • 自賠責保険——抹消後に解約の手続きをすると、残りの期間に応じて保険料が戻ります。保険会社が受け付けた日が基準なので、抹消したら早めに

相続した車に乗り続けるなら、保険は新規契約や入り直しになる場面が多く、複数社の保険料を比べやすいタイミングです。保険料は会社ごとに異なるため、補償の条件を揃えて見積もりを取り寄せてから決めるのが実務的です。

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乗る・売る・廃車——どれを選ぶか

状況向く出口手続き
家族が乗り続ける名義変更(相続)上の「普通車の相続」「軽自動車の相続」
乗る人はいないが、年式が新しい・状態が良い売却相続と同時に第三者へ名義変更(業者に依頼するのが一般的)
古い・動かない・車検が切れている廃車買取・永久抹消相続人の代表による永久抹消(無料)。業者に依頼すれば代行

「古いから廃車」と決める前に、一度だけ値段を確認してください。10年超・10万km超の車でも、業者間の落札データのとおり値段が付いていることは珍しくありません。出口診断ツール(無料・個人情報不要・30秒)で車種・年式・状態から「中古車として売るのが得か、廃車買取が得か」を確認できます。値が付く車なら、売却価格 相場診断で年式別の参考帯も見られます。遺産分割協議成立申立書に使う査定価格の資料をどう用意するかも、依頼先の業者に相談すると話が早く進みます。

まとめ

  • 所有者が亡くなった車は、そのままでは売ることも廃車にすることもできない。まず相続の手続きが必要
  • 相続放棄を考えているなら車に手を付けない。処分すると単純承認とみなされるおそれ。放棄は3か月以内に家庭裁判所へ
  • 普通車は運輸支局で相続による移転登録。戸籍謄本等(または法定相続情報証明書)+遺産分割協議書などが核。車の価格が100万円以下なら遺産分割協議成立申立書で、相続する人の書類だけで進められる
  • 軽自動車は軽自動車検査協会。通常の名義変更の書類+戸籍謄本等(コピー可)で、手数料は無料
  • 売却・一時抹消・永久抹消は相続と同時にできる。永久抹消は相続人の代表が無料で申請でき、重量税の還付もある
  • 放置しても自動車税は相続人に。保険は補償を続けるにも止めるにも連絡が必要

なお、本記事は2026年9月時点の運輸局(関東運輸局「自動車の相続による手続き」ほか)と軽自動車検査協会「名義変更」の案内にもとづいています。相続の手続きは個別の事情で必要書類が変わるため、手続きの前に管轄の運輸支局・軽自動車検査協会へご確認ください。相続放棄や遺産分割そのものについては、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。